残雪期の槍ヶ岳は「夏山の延長」ではない。
冒頭から厳しい言葉になってしまい、申し訳ありません。残雪期の槍ヶ岳に挑戦しようとする気持ちをくじいてしまったかもしれません。
しかし、実際に登ってみて強く感じたのは、残雪期の槍ヶ岳は決して「夏山の延長」ではないということです。
確かに、残雪期は厳冬期とは異なり、山の麓には初夏の気配が漂い、夏道も顔を出し始めています。
雪道の割合も少なく、しかもその雪も厳冬期のように凍りついているわけではなく、場所によってはズボ足で歩けるほど緩んでいます。
さらに、山小屋も営業を再開しており、目印の設置や雪切り作業など、登山者をサポートする環境が整っています。
それでも、残雪期は「雪山」です。
標高3,000m級の山では、麓が雨でも山頂付近では雪に変わり、すぐに積雪となります。朝晩の冷え込みは厳しく、登山道が凍結することもあります。
天候次第で、天国のような絶景にも、地獄のような過酷さにも変貌する――それが残雪期の山です。
このブログでは、そんな過酷な状況にも対応できる装備やノウハウを、私自身の体験を交えてご紹介します。
【注意】
登山は事前計画が大切です。事故なく楽しく登山をするために、体調面含め必要な登山用品を準備してから登りましょう。
残雪期・槍ヶ岳テント泊の登山計画

登山行程の検討
以前、私は新穂高から一日で槍ヶ岳山荘まで登ったことがあります。
小屋泊装備で比較的軽装とはいえ、10時間をかけてようやく山荘に到着したときには、「もうこれ以上歩かなくていい」と思ったほど大変でした。
そのときは標高を一気に2,000m上げたわけですが、一日でこれをこなすのはやはり容易ではありませんでした。
14時頃に到着したものの、疲れ果ててしまい、槍ヶ岳の頂上まで登る気力も残っていませんでした。
今回は、槍沢ルートから登ります。上高地経由なので、早くても5時半から歩き出になります。
そして、残雪期であり、しかもテント泊装備。どう考えても、再び一日で槍ヶ岳山荘まで登るのは現実的ではありません。
予定より遅れると焦りも生まれ、心身ともに負担が増してしまいます。
そこで、今回はババ平に一泊、槍ヶ岳山荘に一泊という、計2泊3日の登山行程を組むことにしました。
ババ平では、ゴールデンウィークからトイレは使えるようになりますが、水場は6月末まで通水されません。そのため、槍沢ロッジで1泊目の夜と2日目の飲料水を確保する必要がありました。
水の運搬は確かに負担ですが、それでも「一日で山荘まで登る」よりは、30分間かけて一人3Lの水を担ぐ方がよいと判断しました。
この計画により、行動時間は5〜6時間、標高差は1,000mと、身体への負担を大きく軽減することができました。
山の三種の神器はどうするか
登山でよく言われる「三種の神器」といえば、「アイゼン」「ピッケル」「ビーコン」です。
まず、ビーコンですが、今回は持参しませんでした。単純に忘れてしまったというのが理由です。
槍沢、特に大曲付近では雪崩が発生する可能性があると言われています。今回は幸いにも、雪崩が起こるほどの積雪はありませんでしたが、沢沿いのルートは本来、雪崩のリスクがある場所です。
万が一の事態に備えて、やはり携行すべきだったと反省しています。
次に、アイゼンについて。
これは当然、持参しました。残雪期とはいえ、標高の高い場所では朝晩の気温が氷点下まで下がり、雪面が凍結することがあります。チェーンスパイクでは対応しきれません。
私は12本爪のアイゼンしか持っていないため、それを使用しました。10本爪でも良いのかもしれませんが、個人的には爪の本数が多い方が安心感があります。
「備えあれば憂いなし」。そう思っています。
そして、最大の悩みがピッケルでした。
ピッケルは雪道でのバランス確保や、急斜面での支え、固い雪面での補助に使います。用途としてはトレッキングポール(ストック)と似ていますが、足腰に負担をかけないようにしたい場合、ストックの方が利便性が高いです。
特に林道が長い今回の行程では、ストックは必需品でした。
では、ピッケルは持っていくべきか?
今回は、持っていかない判断をしました。
理由は、ほとんどの雪道が緩んでおり、ストックで十分代用できたからです。下山時に雪がアイス状になる可能性もありましたが、その場合もストックで対応できると判断しました。
残雪期の雪は、朝7時を過ぎると緩み始めるため、早朝6時頃に出発すればアイスバーンのリスクは比較的低くなります。
一時的にしか使わない道具を、往復40kmの行程で持ち歩くかどうか――悩ましいですが、結果的にストックだけで問題なく下山できました。
ストックの先端のゴムを外してピック状にすることで、雪面にも十分刺さりました。
使用したストックはブラックダイヤモンドのストックです。
どんなに力を入れても長さが変わらないタフなストックです。重宝しています。
防寒着をどうするか
5月末、街中では長袖が暑く感じる季節ですが、標高3,000m級の山では気温がまったく異なります。
最高気温は15度前後、最低気温はマイナス2度近く。雨が雪に変わる世界です。
厳冬期は終始寒いため、防寒着をすべて持っていけば対応できますが、残雪期は昼と夜の寒暖差が非常に大きいため、調整が難しい季節です。
日中は上から太陽、下から雪面の反射光を浴び、まるで360度から日差しを受けているような暑さになります。森林限界を超えると日陰もなく、晴れていればTシャツやシャツ1枚でも十分なほどです。
一方、夜になると氷点下まで冷え込み、薄い氷が張るほどの寒さになります。
したがって、夜間用にダウンジャケットは必須です。
とはいえ、「薄手でいいのか?」「厳冬期用にすべきか?」「シュラフは3シーズン用で足りるのか?」など、悩みは尽きません。
私の経験から言えば、「重ね着」を上手に活用することが鍵です。
寒さは睡眠を妨げ、睡眠不足は翌日の行動にも影響を与えます。
理想は厳冬期用のシュラフとダウンですが、それでは荷物がかさばり、45Lザックには収まりません。
そこで、私は以下のように装備を工夫しました:
- シュラフ:3シーズン用
- 上半身:メリノウールのベースレイヤー+フリース+薄手ダウン(外出時)
- 下半身:サーモパンツ+ダウンパンツ
- マット:R値7
この装備で、寒さを感じることなく眠れました。
私が持参した防寒着類です。ご参考までに。
品名 | ||
---|---|---|
シュラフ | ![]() | モンベルの#3 |
マット | ![]() | サーマレストのネオエアーXサーモ |
ダウン(上) | ![]() | パタゴニアのダウンセーター |
ダウン(下) | ![]() | ネイチャーハイクのダウンパンツ |
パンツ | モンベルのアルパイン イージーフィットパンツ サーモ | |
ベースレイヤー | ![]() | アイスブレイカーの150デールの長袖 |
フリース | モンベルのクリマプラスニットパーカー |
食料をどうするか
テント泊のため、食料は自分で持参する必要があります。単純計算で6食分が必要になりますが、すべてを持っていくとかなりかさばります。
そこで今回は、山小屋の食事も活用することにしました。
2泊3日の行程にしたことで、槍沢ロッジと槍ヶ岳山荘に13時ごろに到着できました。これにより、お昼ご飯を山小屋で済ませることができ、持参する食料を減らせました。
さらに、3日目の朝食は槍ヶ岳山荘の中華ちまきを注文。これにより、さらに荷物を軽量化することができました。
最終的に、持参した食料は以下のとおりです:
- 1日目:夕食
- 2日目:朝食・夕食
- 予備食:1食分
合計4食分を持っていきました。
夕食はマウンテングルメラボシリーズを選びました。
ただし、やや味が薄いと感じました。疲れた体にはもう少しパンチのある味の方が嬉しいですね。
しかし、ドライフーズながら具材も多く、満足度の高い内容です。ちゃんと“食事をしている”という実感があります。
朝食は素麺にしました。味付けには固形鍋の素を使いましたが、これは調整が難しく、失敗すると塩辛くなってしまいます。ラーメンの方が味付けが安定していて、成功率が高いと実感しました。
結論としては、山小屋の食事をうまく活用しつつ、軽めの主食やしっかりした味付けの「つまみ系」食材を持っていくのがベストだと感じました。
もし体力に不安があるならば…
テント泊でも、2泊3日の行程であれば比較的ゆとりをもって登ることができます。さらに山小屋泊にすれば、もっと快適に過ごせるでしょう。
特に、槍沢ロッジにはお風呂があり、一日の疲れを癒し、翌日に備えるにはぴったりの宿泊施設です。
また、行動食だけを持てば良いため、荷物の量も大きく増えません。
行程としては、
- 1日目:槍沢ロッジ泊
- 2日目:槍ヶ岳山荘泊
というパターンでも良いですし、槍沢ロッジを拠点に、2日目は槍ヶ岳まで日帰り往復という形も可能です。
なお、槍ヶ岳から上高地までは、標高差2,000m・距離20kmほどあります。
この最終行程が体力的に不安な場合は、3泊4日をおすすめします。
3日目に横尾山荘や徳沢園に泊まることで、最終日を楽に歩けるようになります。
どちらの山小屋もお風呂があり、食事の評判も上々です。
横尾や徳沢からは、前穂高岳や霞沢岳の眺望も楽しめます。
もちろん、お金はかかりますが、槍ヶ岳と上高地の自然をじっくり味わえる贅沢なプランになります。
また、体力には自信があるけれど、山の説明やルートについて詳しく知りたいという方は、ツアーへの参加もおすすめです。
ガイドさんは休憩の取り方や歩き方の指導はもちろん、山や自然についての深い知識を教えてくれます。
一人で登るだけでは得られない気づきや感動が、きっと得られるはずです。
人の少ない残雪期の槍ヶ岳で、ガイドさんとじっくり山を楽しむ――そんな贅沢な時間も良いものだと思います。
5月下旬の槍ヶ岳の登山道
イメージ動画
残雪期の槍ヶ岳の様子を手早くイメージしたい方は、こちらの動画をご覧ください。
新穂高から登る槍ヶ岳のルートも動画で紹介しています。
*準備中
概要

今回挑戦したのは、5月下旬の槍ヶ岳。
その理由は、山頂からゼブラ模様の北アルプスを見てみたかったこと、そして槍ヶ岳山荘でテント泊を体験したかったことです。
以前9月頃に登ったときの景色も素晴らしく、西鎌尾根から双六岳、大天井岳へ続く東鎌尾根、大喰岳といった名峰たちが連なっていました。
今回は残雪期ということで、どんな景色が待っているのか、そしてテント場での体験はどのようなものか、期待が高まりました。
上高地から横尾山荘までは約10kmの距離を歩き、標高は300mほど上げます。比較的なだらかで、ゆったりとしたハイキング気分で歩けます。
その後、横尾からババ平までさらに5km進みますが、ここでは標高を一気に400m上げることになります。
ババ平から槍ヶ岳山荘まではさらに5km、しかも標高差は1,100m。ここが最大の難所と言えるでしょう。
終盤で標高1200mが残っているのは辛いです。
「困難は分割せよ」と言いますが、2泊3日にして本当に良かったと思います。
槍ヶ岳への道の詳細については、別の記事で詳しくご紹介していますので、ぜひご覧ください。
今回は5月下旬ということで、槍ヶ岳山荘から槍ヶ岳山頂まではアイゼンを使わずに登ることができました。
同じ5月でも、ゴールデンウィーク時期だと山頂直下には氷状の雪がこびりついている箇所があるため、アイゼンは必携です。
それでは、各区間について詳しく見ていきましょう。
上高地から横尾まで

北アルプスの玄関口、上高地。すでに何度も訪れてご存じの方も多いかもしれません。
5月はニリンソウが咲き、とても綺麗な花道を観る事ができます。
上高地の道は多くの記事で紹介されているので、ここでは道の説明というより、山荘情報をご紹介します。
上高地から横尾までは、約1時間ごとに山荘が点在しています。
順番に、嘉門次小屋 → 明神館 → 徳沢園 → 横尾山荘と続きます。
それぞれの山小屋の特徴を簡単にご紹介します。
【嘉門次小屋】:https://kamonjigoya.jp/

穂高神社近くにある山小屋で、上條嘉門次氏が開いたと言われています。冬もこの地に留まり、岩魚や獣を捕って生活していたそうで、「上高地の主」とも呼ばれていました。現在は5代目が囲炉裏で焼いた岩魚を提供しています。ふっくらとした食感で、とても美味しいです。
【明神館】:https://myojinkan.net/

嘉門次小屋のすぐ先、明神橋を渡った場所にあります。小梨平方面からもアクセス可能。ここでも岩魚が食べられますが、調理はガスを使った低温調理のため、囲炉裏で焼いている様子を見ることはできません。
【徳沢園】 :https://www.tokusawaen.com/

おしゃれな外観の洋風山小屋で、ピザやソフトクリームなど洋食メニューが充実。芝生のテント場は寝心地が良く、日向ぼっこにも最適です。近くに流れる川の音を聞きながら、のんびり過ごせます。お風呂も完備されています。
【横尾山荘】:https://www.yokoo-sanso.co.jp/

以前は「一の俣山荘」と呼ばれていたそうで、ハイカラな雰囲気が漂っていたとか。現在は落ち着いた雰囲気の山小屋に変わっています。お風呂があり、前穂高の眺めが美しく、光害も少ないため星空観察にも最適です。
横尾は涸沢、蝶ヶ岳、槍ヶ岳方面への分岐点でもあり、登山者で賑わっています。
涸沢方面では、本谷橋の川を除けば、横尾が最後の給水ポイントとなります。
横尾からババ平まで

横尾から先は、槍沢方面へと向かいます。標識がしっかり設置されており、迷うことはありません。
以前、涸沢から蝶ヶ岳へ縦走した際にもこの道を通りました。あのときは突然の降雪で、残雪期の厳しさを思い知らされた苦い記憶があります。

槍ヶ岳方面へ進むと、笹の茂る平坦な道が続きます。少し登る箇所もありますが、基本的には「このまま本当に登山道に着くのか」と不安になるほど穏やかな道のりです。
この区間は川沿いを歩く場面が多く、特に残雪期は雪解け水が豊富で、川の水量が増しています。至る所にホワイトウォーターが現れ、川の力強さと美しさを感じることができます。

ただし、川沿いの道ゆえ、何度か徒渉が必要です。槍見河原までは2ヶ所、丸太橋を渡る箇所がありますが、ここがなかなかスリリングです。丸太一本の橋は滑りやすく、慎重に渡る必要があります。

崩落箇所もあり、個人的にはこの丸太橋が一番怖かったです。一ノ俣や二ノ俣には立派な橋があるのに、なぜここだけ…と思わずにはいられません。
危険な丸太橋を越えて進むと、再び川沿いに出て「槍見河原」に到着します。

上高地を出発してから約4時間。ここで初めて槍ヶ岳を望むことができる――はずでしたが、今回は雲に隠れていて見えませんでした。お楽しみはグリーンバンドまで取っておくことにします。
槍見河原から10分ほどで一ノ俣の橋を通過。ここから崩落箇所が増えてきます。
豪雨により崩れた斜面や、それを修復したばかりの登山道など、自然の力の大きさを目の当たりにするエリアです。

さらに進んで15分ほどで、立派な橋のある二ノ俣に到着。増水しても流される心配がなさそうな、頑丈な橋です。
二ノ俣からは川と至近距離で並走する道に入ります。雪解けや豪雨の時期には、恐怖を感じるほど川が近くに迫ります。

その影響か、登山道は一部荒れており、道の中央に穴が開いている箇所も見受けられました。いずれ道ごと崩れてしまうのでは…と思わせる場所です。

それでも、槍ヶ岳山荘のスタッフの皆さんが懸命に修復してくださっているおかげで、通行可能となっています。槍ヶ岳へ向かう際は、ぜひ協力金の支払いをお願いいたします。
崩落エリアを抜けると川を離れ、森の中へ。残雪が少し残っていましたが、問題なく通行できました。
川から大きく離れたと感じたころ、視界が開け、槍沢ロッジが姿を現します。ここで昼食休憩を取りました。

槍沢ロッジは槍ヶ岳山荘を開いた穂刈三寿雄さんの親族が運営しています。上高地と槍ヶ岳のちょうど中間に位置し、登山者にとって非常にありがたい存在です。
槍沢ルートでお風呂に入れる最後の宿でもあります(宿泊者限定)。
なお、ランチ営業は13時までなので、ここで昼食を予定している方は時間に余裕をもって行動してください。
ロッジから本日宿泊予定のババ平までは、あと30~40分程度。もう少し頑張りましょう。
道中には、個人的に楽しみにしていた「赤沢岩小屋」があります。
小屋といっても、巨大な岩が屋根代わりとなっている洞穴のような場所です。明治時代にこの地を訪れたウォルター・ウェストンも、槍ヶ岳登頂の際にここに宿泊したと言われています。

当時は山小屋などなく、雨風をしのげるこの場所は貴重な避難所だったのでしょう。
さらに進むと、少し怖い雪渓のトラバースがあります。ズボ足で歩けるものの、滑れば数メートルは落ちそうな斜面なので、疲れが出てくるタイミングでもあり注意が必要です。

その先には開けた平地が広がり、小屋らしきものも見えてきますが、ルートが不明瞭です。
雪に押し曲げられた木々をかき分けて進むと、ようやくババ平に到着します。

この日は私たちだけで貸し切り状態でした。
繁忙期には多くのテントで賑わうババ平も、この日は静寂に包まれていました。

健脚な方なら1日で槍ヶ岳山荘まで行けるでしょうが、テント泊装備で10時間行動はかなりのハードル。
「困難は分割せよ」――2泊3日の行程にすることで、体への負担は大きく軽減されます。
断然、2泊3日をおすすめします。
ババ平でテント泊

ここからはババ平のテント場の様子をご紹介します。
ババ平には、トイレと、雪崩によって何度も破壊された槍沢小屋の跡地があります。この一帯が、もっとも人気のある「一等地」とされています。
トイレを背にして左手にある、少し下がった場所も過ごしやすいポイントです。トイレが近く、それ以上下る場所がないため人通りも少なく、静かに過ごせます。

一方で、登山道をさらに槍ヶ岳方面へ進み、川に近づいたエリアもあります。ここは川が近く、小石が多く、登山道沿いなので人の往来も多く、トイレからも遠いため利便性には欠けます。
ただし、その分、景色が目の前に広がるというメリットも。利便性と眺望、それぞれに良さがあります。

今回は、トイレに近く風が防げる場所にテントを張りました。夜から雨の予報だったため、景色よりも利便性を優先しました。
この場所はババ平の入口にあたるため、シーズン中は落ち着かない可能性もあります。その時々の状況に応じてテントの場所を選ぶと良いでしょう。
なお、ババ平ではゴールデンウィークからトイレが使用可能となり、6月末からは水場も開通します。
今回は水場が使えなかったため、槍沢ロッジで夜と翌日の槍ヶ岳山荘までの飲料水を汲んで担ぎました。
必要な水の量は個人差がありますが、私は3リットルを確保。内訳は、夕食と朝食・合間の飲料で1.5リットル、行動中に1.5リットル。槍ヶ岳山荘に到着した時点で200〜300mlを残していました。
夏場はもう少し多く必要かもしれません。
さて、夕食の時間です。
登山歴が長くなると、手の込んだ食事を作るのが面倒になり、アルファ米やカレー、ラーメンなどで簡単に済ませがちです。
でも、それだけでは味気なく、せっかくの山の時間を存分に楽しむには物足りなさを感じます。
そんなときに重宝するのが、「マウンテングルメラボ」シリーズ。

手軽でワンパック、具材も豊富で満足度が高い。鍋ひとつで簡単に調理でき、ドライフーズとは思えない再現度の高さです。
やや薄味ですが、野菜や肉の食感がしっかりと感じられ、我慢する登山飯ではなく「豊かな食事」を楽しむことができます。
食事が豊かだと、心も豊かになります。登山の活力を養う意味でも、一度試してみてはいかがでしょうか。
ババ平から槍ヶ岳山荘まで

ババ平には本当にお世話になりました。いよいよ、槍ヶ岳へ向けて出発です。
ババ平から槍ヶ岳山荘までは約4km、標高差は1,100m。
前日は15km歩いて標高を500m上げましたが、今回はその半分の距離で倍以上の標高差を登る、まさに急登の連続です。
しかも、雪道を含むためさらに体力が求められます。気合を入れて臨みます。
ババ平を出ると、まずは川沿いの緩やかな道を進みます。やがて山肌をトラバースするルートへ。

このあたりは残雪が多く、雪解けにより出てきた倒木や木々が登山道をふさぎ、非常に歩きにくい区間です。
それでも山小屋のスタッフの方々が雪切りをしてくださっており、進む道が確保されているのは本当にありがたい限りです。これがなければ、途中で撤退していたかもしれません。
このエリアは終始ズボ足で歩きました。場所によっては凍結しており、チェーンスパイクやアイゼンがあった方が安全だと感じました。
ただし、全体的には木々が露出していて雪道は限定的だったため、今回はそのままズボ足で通過する判断をしました。
このあたりは各人の体力や判断力によるところが大きいです。不安がある方は、お持ちの装備を積極的に活用してください。
私たちは大曲分岐を過ぎた辺りででアイゼンを装着しました。目の前に見える丘のような場所が、おそらく天狗原の分岐かと思います。

大曲を越えたあたりで、背後から朝日が差し込み、残雪期とは思えないほどの暑さに。半袖でちょうど良いくらいでした。
登っても登っても終わりが見えず、まさに「雪道マジック」にかかったような感覚を味わいながら、ようやく槍沢モレーンに到着。
遠くから見た写真です。遠目には丘のように見えるこの場所が槍沢モレーンです。両側が沢に削られ、堰堤状になっています。

残雪期はその特徴がわかりづらいですが、紅葉の時期ははっきりと確認できます。

「モレーン」とは、氷河の末端に堆積する岩や砂、石の集まりのこと。氷河は氷だけでなく、山肌を削った岩や土も巻き込みながら下っていき、最終的にそれらが溜まって地形を作ります。
モレーンの末端部は舌のような形をしており、その形に沿って三日月型の地形になることもあります。
槍沢モレーンを越えると、次に見えるのが「グリーンバンド」です。
ハイマツや草木が一直線に伸びており、まるで緑の帯のように見えるこの地形もモレーンの一種です。
ちなみに、天狗原からもグリーンバンドの全景を見ることができます。

今回は分岐がわかりづらく、天狗原には立ち寄りませんでした。次は紅葉シーズンに訪れたいと思います。
その際には南岳・中岳・大喰岳などにも登ってみたいところです。
さて、いよいよグリーンバンド直下の急登に差しかかります。

この登りも大変でした。槍ヶ岳も見えず、天狗原の分岐も不明瞭。今どこにいるのかすらわからず、不安が募りました。
雪渓を登りきってグリーンバンドに出ると、右手に待望の槍ヶ岳が姿を現しました。
このときの感動は、今でも鮮明に覚えています。

ただし、ここで終わりではありません。最後の急登が待ち受けています。
殺生ヒュッテまでは比較的穏やかな登りが続き、岩が露出した場所もあるので、ザックを置いて休憩するには良いポイントです。

なお、殺生ヒュッテは6月上旬から営業開始。このときはまだ準備中で、トイレも使用不可でした。
槍ヶ岳山荘まで頑張るしかありません。

そして最後の核心部に差しかかると、目の前にチェーンスパイクと傘を杖代わりにしている外国人登山者の姿が。
何度も滑りながら登っていましたが、最終的には自ら下山を決断していました。
もし登頂できてしまっていたら、下山できず救助要請になっていたかもしれません。
登山道が整備されているおかげで、軽装でも登れてしまうことがありますが、私たち登山者も山小屋スタッフの想いを汲み取り、しっかり準備を整えて山に挑むべきだと感じました。
そんなことを考えているうちに、残り距離300m地点まで到着。ここからは急登の直登ルートです。

雪が締まっていればアイゼンが効きますが、アイスバーンだとストックが刺さらず、滑落停止もできない可能性があります。
そうしたリスクを考え、雪が緩む時間を見計らって登るのが安全です。
後ろを振り返ると頑張って登ってきた道がくっきりと刻まれています。

気づけば、山荘手前の最後の登りに差しかかっていました。
直前で雪がなかったためアイゼンを脱いでいましたが、滑りやすい箇所もあり、もう少しだけ履いておけば良かったと思う場面もありました。

翌日には階段状に整備されていたのは、私たちの歩きが不安だったからかもしれません。
ともあれ、階段状の道はアイゼンなしでも歩けたので、とても助かりました。
こうして、無事に槍ヶ岳山荘に到着。お腹も空いたので、さっそくお昼をいただきました。
ランチ営業は13時までなので、間に合うように行動計画を立てることをおすすめします。
喫茶室は消灯まで営業しているので、コーヒーなどはいつでも楽しめます。
槍ヶ岳の山頂へ

昼食を済ませ、テントを張ったら、いよいよ槍ヶ岳の山頂へアタックです。
前日には雪が降り、10cmほど積もったとのことでしたが、山荘に着いたときにはほとんど溶けていました。
行きにすれ違った登山者の多くは、朝の時点で登頂を断念していました。
念のため、アイゼンを片手に持って登り始めました。
登山道の詳細については別記事にまとめてありますので、そちらをご参照ください。
結論としては、アイゼンを履かずに登頂することができました。
登山道上に凍結箇所はなく、雪もわずかに道端に残っている程度でした。
今回が2回目の槍ヶ岳登頂ということもあり、道がわかっていたので、初回ほどの恐怖感はありませんでした。
最初は怖かった梯子やボルト、杭のみの細道も、今回はスムーズに進むことができました。

山頂からの景色は、まさに絶景。
ガスは出ていましたが、ゼブラ模様の山肌はこの時期ならではの美しさ。

以前歩いた西鎌尾根、表銀座から伸びる東鎌尾根、奥穂高へ続く稜線、そして登ってきたばかりの槍沢ルートまで、一望できました。
登山をする人なら一度は登りたい――そう思える名峰です。
ぜひ、槍ヶ岳の頂を踏んでみてください。
槍ヶ岳山荘でテント泊

今回は、初めて標高3,000m級でのテント泊に挑戦しました。しかも、残雪期。
どんな環境になるのか、楽しみでもあり、不安でもありました。
結果として、3シーズン用のシュラフでダウンパンツなしだと、やや肌寒く感じました。
夜中にはドラム缶の上に数センチの氷が張るほどの冷え込み。
厳冬期ほどではありませんが、上下のダウンを持参することをおすすめします。
ホッカイロやダウンシューズがあれば、さらに快適に過ごせるでしょう。
個人的には、厳冬期用のシュラフは不要だと感じました。
厳冬期用のシュラフは−15℃まで対応できますが、重くてかさばるのが難点です。
その代わりに、上下のダウンを重ね着するスタイルが現実的で効果的だと思います。
寒さへの耐性には個人差がありますし、使用するギアの性能も大きく影響します。
ぜひ、いろいろな山でテント泊を重ねながら、自分に合った装備を探してみてください。
まとめ

残雪期は夏山の延長ではない。
その理由がよくわかって頂けたと思います。
ただ、夏山にはない絶景が残雪期にはあるのは事実です。
今回も雲海に色づく夕焼けを堪能することができました。
これは3000mの槍ヶ岳山荘だから観る事ができる景色だと思います。
自分と装備の準備を整えて、挑戦してください。
残雪期の北アルプスに登ったら虜になりますよ。
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