夏の北アルプスや八ヶ岳でのテント泊は、昼間は暑くても夜は驚くほど冷え込みます。
「気温は10℃以上あったのに、背中からゾクゾクと寒くて眠れなかった…」そんな経験をした登山者も多いはずです。
その原因は、単なる気温の低下ではなく、放射冷却による地面からの冷気です。
実は、地表の温度は夜になると急激に下がり、テントの床やマットを通して体を冷やしてしまいます。
そこで重要になるのが、「R値(断熱性能)」の高いマット選び。
たとえ夏でも標高2,000〜3,000mのテント場では、R値4以上のマットがなければ快適な睡眠は難しいのです。
本記事では、
- なぜ地面からの冷えが起きるのか(放射冷却の仕組み)
- 夏のテント泊で必要なR値の目安
- R値3〜8のおすすめ登山用マットを比較
これらを分かりやすく解説しながら、性能・重量・価格のバランスが取れた登山マットを紹介していきます。
「軽くて暖かくて壊れにくい」――そんな理想の一枚を見つけましょう。
涸沢の夏でも背中は冷える理由
夏の北アルプス・涸沢の最低気温はおよそ10〜15℃。
この気温だけを見ると「R値2くらいのマットでも十分だろう」と思うかもしれません。
しかし、実際にテント泊をすると「思った以上に背中が冷える」と感じることがあります。
その原因のひとつが、夜間の地表面温度の低下=放射冷却です。
放射冷却とは?夜に地面が冷えるメカニズム
晴れた夜ほど、地表は宇宙に向かって熱を放出します。
夕方から夜にかけての2〜3時間は、地面が急激に冷える時間帯です。
その結果、テント周辺の空気もスッと冷え込み、「日が暮れてから一気に寒くなった!」と感じるのは、この放射冷却によるものです。
夜半以降はゆるやかに温度が下がり続け、やがて「これ以上下がらない限界温度」に達します。
朝になると太陽光で斜面が温まり、上昇気流が発生し、冷気が解消されていきます。
つまり、夜の地表面はまるで宇宙に熱を逃がす冷却装置のような存在なのです。
背中の冷えを防ぐにはR値4以上が必要
標高2,000〜3,000mの無雪期テント場では、最低でもR値4以上のマットがないと夜間の冷えを感じやすくなります。
軽量で人気の「サーマレスト Zライトソル(R値2)」は、2,000m以下なら問題ありませんが、3,000m級のテント場では寒くて眠れないこともあります。
マット素材の基礎知識
マット選びで意外と重要なのが「素材」。
登山用マットは、糸の種類・太さ・織り方によって強度と耐久性が変わります。
素材 | 特徴 |
---|---|
ナイロン | 強度・耐摩耗性が高いが、裂けやすい。 |
リップストップナイロン | 太い糸を格子状に織り込み、裂けにくく軽量。登山ギアで最も多く使われる。 |
ミニヘックスポリエステル | 六角形の織り模様で摩耗に強く、紫外線に強い。引き裂き強度はナイロンよりやや劣る。 |
DHTナイロン | 高強度ナイロン。引張・耐久性ともに高く、上位モデルに採用。 |
また、「20D」「30D」「40D」といったデニール(D)数値が大きいほど糸が太くなり、
耐久性が上がる代わりに重くなります。
登山マットおすすめモデル(R値3〜8)
ここからは、夏〜無雪期のテント泊におすすめの登山マットをR値順に紹介します。
サーマレスト「Zライトソル」

- R値:2.0
- 価格:9,700円
- 重量:410g/厚さ:2cm
- 素材:発泡フォーム
超軽量で扱いやすく、コスパも抜群。
ただし、高山では断熱不足。2,000m以下の夏山限定でおすすめです。
モンベル「アルパインパッド 25 180」

- R値:3.2
- 価格:16,000円
- 重量:664g/厚さ:2.5cm
- 素材:30Dポリエステル・リップストップ
モンベルらしいバランスの良さが魅力。
適度なクッション性があり、R値3台で涸沢レベルの夏山なら快適に眠れます。
しかし、地面の凸凹をカバーできず、寝心地はよくありません。
サーマレスト「プロライトプラス」

- R値:3.2
- 価格:22,000円
- 重量:650g/厚さ:3.8cm
- 素材:50Dミニヘックスポリエステル
耐久性と寝心地を両立したモデル。
涸沢では快適ですが、穂高山荘(標高3,000m)ではやや不安。
女性や寒がりの方は注意が必要です。
サーマレスト「ネオエアーXライトNXT」

- R値:4.5
- 価格:40,000円
- 重量:370g/厚さ:7.6cm
- 素材:30Dリップストップナイロン
軽量・断熱・寝心地のすべてが高水準。
無雪期から積雪期まで対応可能な万能マット。
高価ですが、これ1枚でオールシーズン使える安心感があります。
モンベル「エクセロフト エアパッド 180」

- R値:5.0
- 価格:22,000円
- 重量:658g/厚さ:7cm
- 素材:30Dポリエステル・リップストップ
積雪期にも対応するR値5を持ちながら、価格は2万円台。
重量・断熱・コスパのバランスが非常に優れています。
ただし、ナイロンよりやや裂けやすい点には注意。
ニーモ「テンサー™ オールシーズン」

- R値:5.4
- 価格:35,200円
- 重量:400g/厚さ:9cm
- 素材:20Dナイロン/底部40Dナイロン
軽量で暖かく、寝心地は抜群です。
ただし、表面の20Dナイロンがやや弱く、耐久性に不安があります。
取り扱いには注意が必要です。
ネイチャーハイク「エアマット」


- R値:6.5
- 価格:14,000円
- 重量:460g/厚さ:10cm
- 素材:20Dナイロン
高R値でコスパ抜群。
ただし、素材の耐久性が低く、ハードな登山には不向きです。
キャンプ寄りの使い方なら最適です。
サーマレスト「ネオエアーXサーモNXT MAX」

- R値:7.3
- 価格:50,000円
- 重量:652g/厚さ:7.3cm
- 素材:30DHTナイロン/底部70Dナイロン
極寒対応のハイエンドモデル。
冬季の北アルプスや積雪期テント泊にも耐えられる性能です。
価格は高めですが、一年を通して使える万能モデルです。
ニーモ「テンサー™ エクストリームコンディションズ」

- R値:8.5
- 価格:38,000円
- 重量:472g/厚さ:9cm
- 素材:20Dナイロン/底部40Dナイロン
NEMO史上最高クラスの断熱性能を誇るモデルです。
軽量ながらR値8.5という驚異のスペックで、厳冬期の穂高・立山でも快眠可能です。しかし、やや耐久性に不安が残ります。
モデル別おすすめポイントまとめ
モデル名 | R値 | 価格 | 特徴 |
---|---|---|---|
モンベル エクセロフト エアパッド | 5.0 | 約2万円台 | コスパ最高。積雪期対応可能。 |
サーマレスト ネオエアーXライトNXT | 4.5 | 約4万円 | 超軽量・高断熱。無雪期〜積雪期対応。 |
サーマレスト プロライトプラス | 3.2 | 約2万円 | 夏山中心に最適。快適性と手軽さ◎ |
サーマレスト XサーモNXT MAX | 7.3 | 約5万円 | 厳冬期対応の最上位モデル。 |
ニーモ テンサー オールシーズン | 5.4 | 約3.5万円 | 寝心地◎。取り扱い注意。 |
まとめ:寝床にこそ投資を
テント泊登山で最も冷えるのは「地面からの冷気」です。
そのため、他のギアを節約してでもマットには投資すべきです。
- 快適性と軽量性を両立したい方 → サーマレスト「ネオエアーXライトNXT」
- 価格を抑えて安心感を求める方 → モンベル「エクセロフト エアパッド」
R値は単なる数字ではなく、命と快眠を守る指標です。
放射冷却に負けない断熱力で、快適な山の夜を過ごしましょう。
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